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景気後退に備える:インフレ見通しと中央銀行の次の一手
アン・ ヴァンデナビル
マクロ・エコノミスト
スティーブン・ グリーン
マクロ・エコノミスト (アジア担当)

世界的に景気後退リスクが明確に高まっていますが、その時期、期間、影響を正確に予測するのは困難です。


マクロ・エコノミストのアン・ヴァンデナビルとスティーブン・グリーンが、景気後退の正確な時期よりも、この状況をもたらした要因、インフレと金利の見通し、減速する世界経済における中国の役割に焦点を当てて考察します。


世界経済は景気後退に入るのか、何がそのきっかけとなり得るのか


ヴァンデナビル:一言で言えば「イエス」です。2023年には深刻な景気後退に陥ると考えていますが、さまざまな要因が絡んでくるため、景気後退がどのようなものになるのか正確に予測するのは困難です。


今回の低迷は、粘着性の高いインフレと金利上昇にともなう欧米の景気後退、そして依然として弱い中国経済から始まると考えます。これに続くのが日本であるため、世界の主要経済圏の景気はすべて横ばいかマイナス成長になると考えられます。きっかけは、インフレとそれに対応した利上げでした。インフレは、コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱にともなう物価上昇から始まり、ウクライナ戦争によるコモディティショックとエネルギーショック、そして米国を中心に賃金が急上昇したことによるサービス価格の急騰の影響で押し上げられました。


これに対して各国の中央銀行は、極めて速いペースで利上げを実施しています。こうした金融引き締めの効果が出始めており、米国の住宅市況はすでに悪化しています。住宅ローン金利が急上昇したため、米中古住宅販売成約指数は低下し始めており、売れ残り期間が長期化しています。特にFRB (米連邦準備制度理事会) が今後さらなる利上げを実施した場合、企業業績、設備投資、人件費などに影響が出ると考えられます。


インフレではなく、スタグフレーションに陥る可能性は


ヴァンデナビル:スタグフレーションという用語は、1970年代から80年代にかけての低成長と高インフレの組み合わせの説明としてよく使われました。現在の状況には当時との類似点が多く見られますが、最終的にスタグフレーションに陥るかどうかは、インフレが長期化するか、あるいは中央銀行が景気回復を優先し高インフレを容認するか、といった要素に左右されると考えます。


サービス業では人件費がコストの大半を占めるため、賃金上昇率が高まればサービス価格も同様に高止まりする可能性があります。


米国では利上げを受けて失業率が上昇しても賃金の伸びは続くと考えています。これは、新型コロナウイルス感染の後遺症、移民の減少、早期退職、従来と異なるワーク・ライフ・バランスの追求などを背景に少なくとも400万人が労働市場から退出し、大幅な人手不足となったことで雇用のミスマッチが拡大し、賃金を押し上げているためです。


失業率が上昇しても賃金の上昇が止まらない場合、景気後退を食い止めて市場の変動を抑えるために緩和的な政策を取るのか、1980年代のボルカーFRB議長のようにインフレ抑制を優先して利上げを続けるのか、中央銀行の次の一手が注目されます。


金融緩和であれ、欧州で取り沙汰されているような財政出動であれ、緩和的な政策は一様にインフレ率を押し上げるということも考慮しておく必要があります。


今回のインフレは、粘着性が高い賃金の上昇が要因の一つであるため、長期化すると考えられます。しかし、中央銀行は景気後退やそれにともなうボラティリティ上昇による悪影響を限定するため、迅速に金融緩和に転じるとみられます。



アン・ヴァンデナビル  マクロ・エコノミスト。米国および日本を担当。経験年数22年。TAP (ザ・アソシエート・プログラム:社内研修生制度) を通じてキャピタル・グループに入社し、様々な部門で業務経験を積む。全米企業エコノミスト協会メンバー。

スティーブン・グリーン  マクロ・エコノミスト。アジアを担当。経験年数17年。入社以前は、スタンダードチャータード銀行(北京、上海、香港)において中国語圏経済リサーチヘッドを務めた。それ以前は、英国王立国際問題研究所においてアジア・プログラムを担当。


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