失うことの恐れは、投資において強力な力になります。そして、特にイーロン・マスクやウォーレン・バフェットから大ニュースとなるコメントが引き出されるような状況となっているため、わずか数年間で500,000%を超えるリターンをあげている資産を無視することは難しいです。
ビットコインをはじめ他の暗号通貨は投資家の心を捉えており、金融プロフェッショナルは、騒動に飛び込むか、関わらないか否かについての論争が熱狂していく状況のさなかにいます。
確かに、ビットコインを一時的な流行と片づけて、保有ポートフォリオへの組み込みは不適切だとお客様に言いたくなるかもしれません。しかし、単に軽視することは、ある種の人に対しては適切な答えにはならないでしょう。さらに、質問自体が、お客様のリスク許容度への理解を深めるための重要な機会になります。
銀行業界を担当するキャピタル・グループの株式投資アナリスト、バーバラ・バーティンは、次のように述べています。「ビットコインを実際に購入してみたいと思っているお客様がいるならば、「購入してはいけない」と言うだけではかえって害になります。現に、少額保有は、学習経験になりえるのです」
ビットコインの顕著な上昇 — 価格と検索アクティビティ
出所:Google Trends、Refinitiv Datastream。2021年5月6日現在。検索ボリュームのデータは、一定期間における最高値と比較したGoogleの検索ボリュームを示しています。100という値は、その用語の人気がピークに達していることを意味します。50という値は、その用語の人気がピーク時の半分であることを意味します。ビットコインの価格は対数スケールで示されており、米ドル表示となっています。
ビットコインとは?
ビットコインは、最先端の暗号化技術を用いてデジタル通貨が創り出された資産クラスの間で飛びぬけて人気の高い暗号通貨です。その他の人気の高い暗号通貨は、イーサリアム、リップル、ライトコインなどがあります。伝統的な通貨とは異なり、ビットコインの管理は中央集権的ではなく、管理する銀行も存在せず、政府による支援もありません。
ビットコインのルーツは、サトシ・ナカモトという匿名で活動していた無名のプログラマーが暗号通貨の実現に必要とされる技術とコードをまとめた論文を公表した2008年に遡ります。
最も重要なことは、この論文には「マイニング(採掘)」の過程が描かれ、マイニングが成功すれば新たなビットコインが発行されます。ビットコインは、一連の計算を解析するコンピュータアルゴリズムを用いて採掘されます。これらの多大な時間を要する計算で検証して、ビットコインを新たに発行できるようになります。採掘できるビットコインはわずか2,100万枚に過ぎず、供給が増えると発行により時間がかかることになります。
激しい変動
キャピタル・グループのポートフォリオ・マネジャーのアラン・ウィルソンは、以下のように説明します。「ビットコインは、その価値が急上昇するたびに大きな注目を集めがちです。ただ、ある時点で逆方向に向かう可能性もあることを念頭に置いてください。投機する人は、どちらの方向にも極端に変動することに対して、準備を整えておくべきなのです」
実際に、ビットコインは4月17日に急落し、1時間で約14%下落してその後反発しました。一時的な大幅下落の引き金になったのは、米国の当局が、暗号通貨が関係するマネーロンダリングの取り締まりの強化を計画しているとの未確認の観測がインターネット上に広がったことが背景にあります。その数日前、ビットコインと他の暗号通貨は、取引プラットフォームのコインベースが上場を果たし、時価総額が860億ドルに達したことを受けて上昇しました。
テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクも同様に、ビットコインの価格変動を引き起こす人物として有名です。例えば、2月にテスラ車の決済手段としてビットコインを受け入れる方針を最初に示した時、暗号通貨は急騰しました。その後、5月に方針転換したことが下落のきっかけとなりました。他方、証券取引委員会(SEC)は、5月11日に声明を発表し、ビットコイン先物市場に投資する投資信託に対して、投資家は「取っているリスク水準」と、そうしたリスクを許容できるかどうかを重視すべきであると注意喚起を行いました。
ビットコインのマイニングの方法
出所:キャピタル・グループ
ビットコインの基本が終わりましたので、暗号通貨についてお客様と話し合う際にどのようなことを主な問題点として検討すべきでしょうか? 暗号通貨を調査した複数のキャピタル・グループのプロフェッショナルは、以下に4つアイデアを示しました。
1.限度額を提案し、学習経験として対処
投資家なら、5年前ビットコインに100,000ドルを投資していれば、現在の価値は1,400万ドルを超えていたと推定しがちです。ただ、そうした華々しい過去の結果は、将来のパフォーマンスの予測にはならないことを説明することはあなたの責任です。
「ビットコインの変動性が極めて高いことを踏まえて、お客様と話をして、ポートフォリオへの組入比率を1%未満にとどめる必要があることを納得させた方がいいです」と、バーティンは提案しています。「お客様が「ビットコインに資金を投じなければならないと」主張した場合、失っても大丈夫なわずかな余裕資金で投資するようにアドバイスしてください」と、付け加えました。
そのうえで暗号通貨を少額保有すれば、教育上のトレーニングとして有益になる可能性があります」と、バーティンは指摘します。「リスクを取って投資をすること」は、お客様に暗号通貨について学習するように仕向けるための方法です。また、お客様の本当の意味でのリスク許容度を評価して市場における高いボラティリティ水準への反応を観察する手段でもあります。
2.重大なリスクを説明
「一部のお客様は、制限がわかればビットコインの購入を再検討するかもしれません」と、キャピタル・グループの金属・鉱業担当の株式投資アナリストは述べています。
リスク1:ビットコインは、リソースの観点からみると交換手段としては実際的ではありません。ビットコインの供給は限られており、アルゴリズムを処理する高性能コンピュータ・システムを使って「マイニング」された時のみ、新しいビットコインは発行されます。ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センターがまとめたビットコイン電力消費指数によると、そのプロセスにはかなりの演算能力を必要とし、暗号通貨のマイニングの消費電力は、世界の電力消費量の約0.6%を占め、アルゼンチンの国全体よりも消費電力が多いのです。ビットコインの価格が急騰すれば、投機家はより儲かることになり、マイニング作業用の高性能コンピュータを導入します。「価格が続伸すれば、その後電力消費も増えることになり、その多くはその電力が石炭火力を電源とする場所でマイニングが行われるため、したがってCO2排出量が大幅に増える」と、アプトンは指摘します。
リスク2:「政府は、ビットコインの使用を監督せずに繁栄したままの状態で放置するとは思えません 。ビットコインはソブリン通貨の座をとって代わろうとしています」とアプトンは指摘します。「ビットコインの急速な増殖を放置すれば、金融政策の設定および利益と資産への課税に対する政府と中央銀行の能力は低下しかねません」したがって、世界中の法執行機関は、ビットコインを利用しにくくするために判断を下す可能性があります。韓国は最近、マネーロンダリングと他の違法行為の阻止を目的に、暗号通貨を規制する法律を施行しました。過去に暗号通貨を厳しく取り締まった中国は、自国にデジタル通貨を導入し、米国は「デジタル・ドル」を導入していつかその動きを追随する可能性があります。
リスク3:ビットコインは、安定した価値を蓄えません。価値を保存するための資産と考えて、暗号通貨に魅力を感じる投資家も中にはいるかもしれませんが、ビットコインの盗難の事例が複数存在します。一部の不運な所有者は、デジタルの秘密鍵の置き忘れや紛失により、資金を入手する手段を失っています。ビットコインの管理は中央集権的ではないため、支援を求める先がありません。
リスク4:ネガティブキャリー投資家は通常、米ドルを含め、ほとんどの主要通貨の保有に対して利息という形で支払を受けます。資産を保有する投資家は受取利息という観点では損をするため、ビットコインには該当しません。同じことは金にも言えます。これは、ネガティブキャリーと言われており、つまり投資家は資産を保有するだけで損をする可能性があります。
リスク5:「ビットコインは、必ずしも米国の株式リスクに対するヘッジになるとは限りません」と、キャピタル・グループの通貨アナリストのイェンス・ソンダーガードは説明します。ビットコインの熱狂者にみられる共通の主張は、株式相場が下落したときにダウンサイドのプロテクションとして役立つかもしれないといいます。場合によっては該当するものの、2020年の2月終盤から3月にかけての弱気相場において、有効なヘッジとして機能しませんでした。価格は急落し、その後反発して、その後大幅高となりました。ソンダーガードは以下のように述べています。「ビットコインがヘッジとして機能できるかどうかは、いまだ未解決の問題です。投資家は、様々な市場環境下でビットコインの動きがどうなるかについて多すぎるほど慎重に想定するべきです」
2020年にビットコインと米国株式市場の相関が急上昇
出所:Refinitiv Datastream。2021年4月15日現在。データは、日次リターンを用いて、連続した6カ月間の相関を示しています。相関は、2つの資産が同じ方向に動く傾向を示します。ポートフォリオ構築では、2つの資産間の相関が低い、または負になっていれば、2つの資産は、逆の方向に動く傾向があり、ポートフォリオのボラティリティの低減に役立つ可能性があります。
3.基盤技術の潜在性を認識する
「ビットコインとその他の暗号通貨には確かに大きなリスクを伴うものの、革新的なイノベーションも存在します」と、キャピタル・グループの新興技術スペシャルリスト、ミヌー・サルウォノは述べています。
イノベーション1:ブロックチェーン。ブロックチェーンを初めて適用したのがビットコインとイメージしてください。この基盤技術は、公開または非公開ネットワークで共有して取引を追跡できるデジタル台帳のもとになっています。これらの台帳は取引により発生し、ネットワーク参加者が承認して情報のブロックとして記録します。取引のブロックが増えると、その前の取引に安全につながります。これらのデータのチェーンは、取引パートナーによって共有と追加が可能で、より簡単で効率的な金融取引の処理手段となっています。
ビットコインの基盤技術は既に、多くの大手金融機関が採用しています。「ビットコインの運命がどうなろうとも、ブロックチェーンの将来はとても有望に見えます」とサルウォノは述べています。
イノベーション2:イニシャル・コイン・オファリング(ICO)。ICOとは、企業が暗号通貨を使用して、事業用の資金を調達する方法です。その受取金は新規プロジェクトの資金に充てられる一方、買い手は「トークン」を受け取り、多くの場合は売買可能で、また発行会社からモノやサービスを購入するために使用することができます。「トークンは、マイレージサービスのようなポイントの付与に似ています」と、サルウォノは説明します。
こうしたイノベーションによって、企業が資金調達する方法が変化し、投資に利用できる企業のプールも拡大する可能性があります。ただ、繰り返しますが、可能性には思わぬ落とし穴もあります。登録されないICOもあるため、詐欺の格好のターゲットとなると政府の規制当局は警告を発しています。現に、これらの商品に関連して相当数の問題が発生しています。
イノベーション3:世界の一部の地域にとって新たな代替通貨に。通貨の価値が不安定な国では、暗号通貨はより魅力的に映る傾向があります。金のように、暗号通貨は、価値を蓄える手段とみなせるかもしれません。暗号通貨のメリットを保持しながら、マイナス面を統制すれば、追加の規制も望ましくなり得ます。
4.投資家の心理を深く理解するためにビットコインの使用を考慮する
顧客がビットコインや他の暗号通貨を購入しようとするのを思いとどまらせることは、アドバイザーにとっては賢明のように見えるかもしれませんが、選択肢を広げる正当な理由があります。投資家の心理を掘り下げる最善の策かもしれません。
顧客がビットコインを購入すれば、市場における高いボラティリティ水準に対する顧客の反応を評価できます。「これは、標準的な顧客調査で判明すること以上に、本当の意味でのリスク許容度を理解するための有益かつ実際的な方法です」と、バーティンは説明します。顧客の心理に対する洞察は、顧客ポートフォリオの資産配分のプランを作成する際に役立つでしょう。
「投資を行うにあたり、行動はとても重要です」と、バーティンは断言します。「行動はビットコインにとどまるわけではありません。これは社会実験です」
バーバラ・バーティンキャピタル・グループの株式投資アナリスト兼リサーチ・ディレクター。欧州と南米の銀行、世界の銀行のアウトソーシングプロバイダに対するリサーチを担当。運用経験年数12年(経験はすべてキャピタル・グループでの在籍中)。ペンシルベニア大学ウォートン校でMBA(優等)を取得、HEC経営大学院でファイナンスの修士号を取得。ロサンゼルス・オフィス在籍。
ダグラス・アップトン 株式アナリスト。グローバルの金属・鉱業を担当。経験年数33年。現職以前は、カナダの銀行セクターも担当し、欧州のリサーチ・ディレクターを務めた。入社以前は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントに勤務。それ以前は、WMCリソーシズで、オペレーション、財務、マーケティングなど複数の部門を経験した後、HSBCにおいてコモディティ・リサーチ担当のヴァイス・プレジデントとして従事。
アラン・ウィルソン ポートフォリオ・マネジャー。運用経験年数34年。ハーバード大学でMBAを取得、マサチューセッツ工科大学で土木工学の学士号を取得。
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