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エマージング市場
米ドル安はエマージング市場のカタリストとなるか
ナタリア・ ゼーマン
インベストメント・ディレクター
キーポイント
  • 米ドル安は、歴史的にエマージング株式にとってプラスに作用してきた (両資産クラスは逆相関)
  • 15年間にわたり米国経済と米ドルが優位に立っていたが、新興国に対する米国の相対的な魅力は低下傾向
  • 米国の景気後退局面では米ドル高が進むことが多い。エマージング株式は米国の景気後退局面およびその後の12ヵ月のいずれにおいても米国市場に先行する傾向

これまで、米ドルとエマージング株式は逆相関関係にあり、米ドルが上昇すると、エマージング株式は先進国株式に対して下落する傾向にありました。


2022年秋以降の下落により、10年間続いた米ドルの強気市場がついに終了する可能性があるとの見方が広がっています。このような背景から、株式インベストメント・ディレクターのナタリア・ゼーマンは、これがエマージング株式の新たな上昇局面のきっかけになるかどうかに着目しています。


歴史を振り返ると、米ドル高には次の事象がともなうことがありました。
 

  • 新興国の債務リスクの高まり:新興国企業は、世界の基軸通貨である米ドル建てで借入を行うことが多く、クロスボーダー・ローンや外国債券の約半分が米ドル建てです*[1]。米ドルが上昇すると、こうした債務の返済コストが増加して新興国企業のバランスシートを圧迫します。
  • 世界経済の成長鈍化:FRB (米連邦準備制度理事会) が利上げを実施すると、他国の中央銀行も自国通貨を防衛するために、多くの場合追随利上げを余儀なくされます。利上げの結果、国内の借入コストが上昇し経済成長を抑制し、景気減速が最終的に政府の歳入を悪化させるため、新興国の債務が増大する可能性があります。
  • 貿易に対する懸念:米ドルは国際貿易において依然として中心的な通貨であり、インボイス (貿易建値) 通貨のおよそ半分は米ドルであり、国際的な決済も米ドル建てが主流です*[2]。米ドル高になると、非ドル経済圏で事業を展開する企業は見積もりや決済に米ドルを使用します。これにより輸入コストが押し上げられ、新興国企業の利益率を悪化させる可能性があります。

米ドル高は「安全への逃避」傾向とも関連しています。投資家は従来、不確実性が高い時期 (ロシアによるウクライナ侵攻が起こった2022年など) には、流動性、基軸通貨としての地位、経済や政治の安定性、透明性、法の支配といった理由で米ドルを選好する傾向があります。


しかし、今後を展望すると、循環的な米ドル安を示す徴候が増えています。これは総じてエマージング株式には支援材料となっています。一方、構造的には、米国経済と米ドルが15年間にわたって世界の牽引してきたものの、新興国に対する米国の相対的な魅力は低下しつつあると考えられます。このことも、米国だけでなく新興国を含む米国外の市場へ分散投資するという考え方を支持するものです。


 


*1. 2022年12月現在。出所:国際決済銀行による2022年12月のレポート、キャピタル・グループ


*2. 2022年12月現在。出所:国際決済銀行による2022年12月のレポート、キャピタル・グループ



ナタリア・ゼーマン  株式インベストメント・ディレクター。経験年数10年。入社以前は、北京・香港において個人事業経営。


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